最初にそれがレーダーに捉えられた時、誰も本気にしなかった。 モニターの隅に突如現れた点。 「ノイズだろ」「またモニターの不調か」 「でなくとも鳥の群れか電磁波か、まぁすぐ消えるだろう」 管制室の一角で、冷却ファンの唸る音に紛れ、数人の職員がその映像を睨み続けている。 だがそれは消えなかった。 いくら時間が経っても、点はそこに在り続けた。 埋め込まれたかのように異様な制止を保ちつつ。 誰もが次の言葉を言い淀んでいたが、ついに一人の職員が漏らす。 「何かここに在る、巨大な・・・」 一斉にその方角に目を向けるも、窓の外には深い闇と僅かな漁火が揺れているだけだった。 時を同じくして、SNS上では闇世に浮かぶ巨大な影について噂され始める。 そして明け方には、その存在が明らかとなった。 それは球体だった。 滑らかな光沢と陰影が、完璧な曲面である事を主張している。 金属とも樹脂ともいえぬ、直径数百メートルはあろう巨大な球。 数日後、各国の科学者や軍事組織、宗教団体までもが集結する。 だが、その正体は掴めなかった。 電磁的にも物理的にも解析できず、完全に閉ざされている。 それはまるで、“ただそこに在ること”が目的であるかのように。 やがて人々は、それを“点P”と呼ぶようになる。 始まりの点。数学で見慣れた、任意の点。 しかしその点が、いったい何を意味するのか。 人類はまだ、何も知らなかった。