調査解析本部では、今まさに有識者会議が開かれていた。 壁一面の大型スクリーンに、港から山間部まで続く赤い線が示されている。 「・・・これが、点P侵攻ルートの解析結果です」 主任分析官の言葉に、視線が集中する。 スクリーンに示される赤線は、直線ではなかった。 数十メートル単位で細かな揺らぎを見せている。 「進行速度は一定でしたが、進路は完全な直線ではありませんでした」 「測定誤差ではないのか?」 「それが・・・地形や建造物の配置と、ある程度相関が見られます。ただし、障害物を避けているわけではない」 どよめきが広がる。 避けているわけではないが、軌道を変えている。 まるで何かを探すように。 「探索行動か、あるいは──」 「あるいは“意思”とでも?」 冗談めかした口調が飛んだが、誰一人として笑ってはいない。 主任は次の図面を映す。 「もう一つ気になるのは、出現地点から真っ直ぐ人口密集地に向かって進んだ点です」 「そうだ。都心部へ向かったのは単なる偶然とは思えない」 「都心部だけではありません。動き出した当時、見物客で賑わっていた港町の高台をしっかり通過している」 皆が顔を見合わせる。 「人間を、狙っている・・・というのか?」 「い、いやしかし・・・人の少ない山間部へも侵攻したではないか!なぜだ?」 「不明です。ただ、被害の大きかった都心部中心地付近で、この移動の揺らぎが顕著でした」 意見を待たずに主任は最後の図面を示す。 山間部の終着点、山脈部分。 そこには大きな“×”印が描かれている。 「消失地点です。何故消えたのかは、未だ不明です」 「消える瞬間を観測した者はいないという事だが」 「ええ。計画された攻撃作戦では山脈から出てきたところを爆撃する予定でした」 「──それが、姿を現さずにそのまま消失した・・・と」 「まるで、完全に人目から隠れた瞬間を狙ったかのようだな」 会議室の空気はひどく沈んでいた。 グラスに結露した水滴がきらりと流れる。 もし点Pの挙動の全てが意図的なものであったなら──。 ここにいる全ての人間の脳裏に、その恐ろしい可能性がよぎった。 「──ともかく、公式見解を出すのは時期尚早という事だ」 「そ、そうだ。現時点では情報が少なく──」 その時、通信士が慌ただしく駆け込んできた。 「緊急通報!未確認大型物体、観測レーダーに出現!」 スクリーンの地図には、新たな赤い点が不気味に瞬いていた──。