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第6話:全てを穿つ点P

警備隊の展開した港を、見物客が押し寄せた高台を押し潰し点Pは侵攻を続ける。
数百メートルという規模の球体が全てを抉り迫ってくる様子は、20kmほど離れた都心部からも観測でき、既に恐怖と混乱が蔓延していた。

「おい!来てるぞ!」「想像以上にでかい」

緊急避難指示が発令される間もなく主要な交通網は麻痺。
我先にと人が溢れ返り、既に身動きが取れなくなっていた。

「お願いです!通して!」「早く引き返してくれ!」

乗り捨てられた車が道路を塞ぎ、地下鉄は既に稼働せず、逃げ遅れた人々が彷徨い歩いていた。

──約4時間後、ついに都市中心部まで点Pは到達する。
ここまで侵攻してきた軌跡が、あの海まで続いている。

抉られた瓦礫の隙間から、ところどころ立ち上る黒煙。
海抜ゼロという高度を保った点Pは、地上は勿論のこと地下の構造物すらも巻き込んでいった。

その先端、捻じ曲がった鉄塔や粉々のビル群を巻き込みながら、瓦礫の波と一体となった点Pがじわじわと侵攻を続けていく。

《これが球体。最も完璧です》

不自然なほど緩やかで恐ろしい波は、その圧倒的な力を示しながら等速運動を続けている。

都心にそびえるランドマークも眠ることを知らなかったビル群も、点Pの前には等しく些細なものだった。
つつましく息づいていた家々も、子どもたちの笑顔が溢れた公園や学校も、あの点Pの前には等しく無価値なものだった。

日常が緩やかに破壊されていく。

──広くも狭いこの都心部において、点Pの侵攻に巻き込まれ犠牲になった人々は5~10万人規模と推定された──

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