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第7話:迫られた選択

都心部に甚大な被害をもたらした点Pは、そのまま山間部方面へ侵攻していく。
一方、私が招集された緊急対策室では点Pへの対処について議論が白熱していた。

「死者10万人とも・・・一体どうするんです!?」
「あれを今まで放置してきたために起きたことではないか!この責任は・・・」
「予測されるルート上の避難支援なら、とっくに動いています!」
「しかしこのままでは・・・」

一向に進まない議論、募る焦燥感。
私含めてここにいる全員が、どうすればいいか皆目見当もつかないらしい。
未だかつて、このような経験がなく責任を問うような文句ばかり飛び交っている。

いたずらに過ぎていく時間。
こうしている間にも、点Pは移動している事だろう。

「攻撃、しかない」

険しい表情のまま考え込んでいた防衛大臣が漏らす。
おそらく皆分かっていたことだった。
あの球体の侵攻を止めるには、破壊して動きを止めるしかないことを。

「実は先程、打診があった」

対策室が一気に静まり返り、誰もが緊張の面持ちで次の言葉を待った。

「同盟国主導の攻撃作戦だ、我々の手持ちでは不足だろうとね」
「・・・彼ら、兵器のテストがしたいだけですよ」
「いやその通りだ。我が国の役割は──」

ここにきて突如浮上する点Pに対する攻撃計画。
しかし我が国はあくまで点Pの監視追跡と、攻撃効果の検証なのだという。
同盟国とはいえ、国内で兵器使用の許可など・・・。

「承認されるでしょうか?まずは自国で──」

思わず口を挟む。

「何かと都合が良いんだよ、この方が。」

やれやれ、というような顔で大臣が続けた。

「我々は同盟国に“守られている”事になっている。上下関係でいえば当然、下だ。
 それは国民も分かっている。であれば“納得感”がある。この判断も『仕方がない』と」

「そんなこと・・」

どうにか、何かを言い返したかったが、何も言い出せなかった。
確かに、言いなりになっている印象は国民の誰しもが感じていることだろう。

大臣が言うには、この攻撃により万が一被害が拡大し責任問題になったとしても、直接手を下したのは同盟国で我々はあくまで支援に徹したと説明できる、と。
そしてその同盟国側も、最新兵器と最良のプランをもってベストを尽くしたのだと宣言すればそれ以上の追及も躱せる、そういう事であった。

─都心部侵攻から約7時間が経過、点Pは都市郊外から山間部をも蹂躙し、連なる山脈をも貫かんとしていた。

ようやく、点Pに対する攻撃計画が承認される。

「鬼が出るか、蛇が出るか・・・だな」

大臣は力無く苦笑を浮かべ、部屋を出て行った。
間もなく日付が変わろうとしている。
今頃、軍の人間達は慌ただしく動いていることだろう。

「鬼が出るか、蛇が出るか・・・か」

私は空白だらけの資料を握りしめながら、その言葉を何度も思い返していた。
点Pが何者かも分からないまま、我々は“行動”を選んだ。
それが唯一で最良の選択だったと、今は思い込むしかなかった──。

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