──違和感。 先程まで圧倒的な存在感を放っていたはずの“あの音”が聞こえない・・・! ハッとして時計を確認すると、既に予定時刻を過ぎている。 額から汗がぶわりと吹き出す。 「点Pは!?」「未だ山の中に留まっているかと・・・!」 「同盟国からの攻撃もありません」「作戦は?どうなっている!?」 混乱する指揮系統をよそに、気が付けば地鳴りもぱたりと止んでいた。 日常の静けさを一気に取り戻した山々には、我々のエンジン音だけが不穏に響いている。 「鼓動も聞こえない・・・どこへ!?」 陽の光が射し始め、大地に刻みつけられた傷跡だけが徐々に浮かび上がる。 「攻撃作戦は・・・中止だ。周辺地域の警戒を──」 直後、本部からの中止命令が無線に流れる。 そこに覇気はない。 動揺、落胆、決死の攻撃作戦が空振りに終わり、その日の正午より現場調査が行われた。 しかし、点Pの行方の手がかりとなり得るものは何一つ見当たらなかった。 ──点Pという圧倒的な存在の出現。 人々を恐怖に陥れた、あの宣告。 一切制止できない等速運動が始まり、障害となるものはすべて蹂躙された。 そんな事象がまるで嘘だったかのように。 点Pは、完全に“消失”していた。 引き摺られ、瓦礫に絡みついた鉄塔やビル群の鉄筋が、糸屑のように散乱している。 山間部には深い渓谷が形成され、その終点には大きく穿たれた山が墓標のように佇んでいた。 大地に刻まれた凄惨な傷跡が、それが夢ではなかった事を物語っていた──